カタログ散策 06話 2155H

JBLの歴代同軸型ユニットの中で2155H(38cm)とその弟分の2152H(30cm)だけがホーン型の高域部を備えています。38cm同軸型としてはなつかしい2150以来のものです。

このユニットのバイラジアルホーン部はウーハーのコーン紙を覆うように非常に大きく広がっており、外観上の特徴となっています。ALTECの604−8Kやユーレイの同軸型ユニットと比較すると、そのホーンの大きさが理解できます。このため、このような構成を備えたユニットとしては、クロスオーバー周波数が1.2KHzと低くなっています。なお、ウーハーとドライバーの端子が露出しているので、マルチアンプドライブも可能です。最大直径391mm、全体の重量は10kgちょうどの堂々としたユニットです。

なお、奥行きに関しては、2155Hのパンフレット(96年10月)とテクニカルマニュアル(93年7月)との間では、数値が異なります。パンフレットの方は、フレーム前端(ガスケットを除く)からドライバー後端まで、260mmとしていますが、テクニカルマニュアルでは254mmです。

ウーハー部は、D130のフレームとは異なり、深さのある形状のダイキャストフレームで構成されています。磁石の重量は1.45kg。高域を伸ばすために3インチのボイスコイル径と本ユニット専用のカーブドコーンが採用されています。ボイスコイルは、JBLの伝統的なエッジウォンドアルミニウムリボンコイルです。

このウーハー部はM151−8というフルレンジユニットと良く似ているように思うのですが、実際のところ振動系の実効質量が未発表であるため、どのような素性なのか今ひとつ分かりません。能率等から推定するとおそらく80g程度だと思います。

ドライバーは2416H(正確には2416H−1)。1.75インチ(44mm)径のチタンダイアフラムで、かって30cm〜38cmの2ウェイシステムにJBLが好んで使用したユニットです。このチタンダイアフラムは、JBLお得意のダイアモンドパターンのエッジにより支持されています。また、銅のショートリングが設けられており、高周波帯域のインピーダンスをコントロールすることで当該帯域のレスポンス(応答性)を改善しているそうです。磁気回路は2426Hよりも小さいですが、なかなか立派だと思っています。

2416Hの端子は板状で、簡単なカプラ−を介してリード線が取付けられています。これは気持ち悪いので、この板状の端子にドリルで小穴をあけ、リード線を絡げて半田付けしました。

正方形の開口を持つバイラジアルホーンの指向特性は垂直方向も水平方向も90度です。JBLのパンフレットに表示されている500Hzから16kHzのオクターブ毎の指向特性をもとに、他のホーンと比べてみると、2344Aよりは狭く、2370Aよりは広い指向特性(水平方向)ということになります。

ネットワーク(N2155H)の回路図等は、2155Hのテクニカルマニュアルに記載されています。ネットワークは、12dB/octで、バイラジアルホーンの高域補正用と思われる部分を除いては、特に変わったところはありません。JBLのネットワークの文法どおり、ちゃんと0.01μFの小さなコンデンサがパラってありました。

2155Hの極性は、+端子に正電圧がかかるとコーン紙が前方に移動する(ドライバーのダイアフラムは後方に移動)スタンダードなタイプです。ちなみに、ユニット毎の極性は、ウーハー部が正電圧で前方、2416Hが後方です。なお、2416Hの極性について言及しているJBLの資料は発見していません。

JBLのユニットやシステムの極性に関しては、Technical Notes, Volume 1 Number 12B Polarity Conventions of JBL Transducers and Systemsに詳しく説明されています。5235でマルチアンプ駆動する場合の説明では、2360のような大型ホーンではウーハーと正相に、2380のようなショートホーンでは逆相になるように接続せよ、と記載されていました。

それから、これはユニットの性能には関係ない話ですが、JBLの2155Hのパンフレットには2152Hの写真が、また、2152Hのパンフレットには2155Hの写真が使われています。JBLのパンフレットは大変体裁がいいのですが、ときどきミスがあって、混乱させられます。パンフレットには、ALTECのようにカットモデルの写真をつけて欲しかったですね。

なお、本ユニットは極めて残念なことに製造中止になってしまいました。しかし、弟分の2152Hの製造は、続行されています。38cmの同軸は使いにくいからなのでしょう。

使ってみると
160Lのバスレフ箱に入れていますが、質、量共に満足できる低音を出すのはイコライジングが必要だと思います。なお、JBLは133Lのバスレフ箱を推薦しています。手っ取り早く量感を優先するならば、このような小さめの容積というのも一つのやり方かもしれません。また、バスレフのポートがユニット周囲に分散配置されている4507Aエンクロージャーとの相性が良いのではないか、とも思っています。

もっとも、ステレオサウンド別冊のフルレンジスピーカーの特集で高津修氏が計測したところによると、f0が47Hz、Q0が0.58、m0は80gから90gということでした。この数値に基づいて計算してみるとかなり大きな箱になると思います。なお、このQ0値は、歴代のJBL38cmウーハーの中では一番高い値かもしれません。

それから、ステレオサウンド別冊の「JBLのすべて」の中で井上卓也氏が2155Hを平面バッフルと組み合わせることを提案していました。これは魅力的。YSTのようなサブウーハーを少し効かせて、平面バッフルを楽しむというのもマニアックでいいと思うのです。岩崎千明氏がD130の平面バッフルを誉めていたのが気になります。

低音は、38cm口径らしく、広い面積で空気が押し出されるような余裕を感じさせてくれます。低音の量感や伸びの不足に関しては、エージングで改善されてゆきます。また、こうした不足は、ヤマハのYST−SW160というサブウーハーでも補うことができました。

なお、取付けについては、注意したい点が2つあります。一つ目は、ホーンの水平垂直の位置関係が、フランジの8個の取付け穴と正確に対応していないということです。フランジの8個の取付け穴を基準にするとホーンが傾いてしまうことがあります(最初は知らなかったので見事に傾きました…)。ユニット毎に違うようですから、現物で取り付け穴の位置決めをしてください。しかし、こうした作りのいいかげんさは、JBLらしからぬことだと思います。

二つ目は、フロントマウンドの場合、バッフル板の開口直径は356mm、とパンフレットに表示されているのですが、これは少し大きすぎると思います。付属のガスケットの内径寸法等を参考にして開口直径を決めることをお勧めします。

総括すると、面白いユニットなのですが、実力を引き出すのは根気がいると思います。すぐに納得できる音が出ることはないと思いますので、残念ながら、あまりお勧めできない、というのが正直なところです。

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