カタログ散策 05話 SH−D1000

SH−D1000は、EQCDというソフトと組み合わせて使っています。EQCDのソフトは単体で動作しません。本体に付属しているPAPという英語では変な意味になるプログラムを最初にインストールする必要があります。EQCDというソフトは、良く考えられて作られていると思うのですが、残念ながら、4ウェイの接続方法や位相関係の解説は、テクニクスのサイトやヘルプファイルにもなく、やや不親切だと思いました。

EQCDは、ステレオ2ウェイモードで使用しています。全体の構成は、ステレオ入力信号をL、R共通のイコライザ部を通過させた後、L、R別のチャンデバを通過させるというものです。

このEQCDの良いところは、チャンネルデバイダ部やイコライザ部で設定した特性を分かりやすくグラフ表示できることです。このグラフ表示は、チャンネルデバイダとイコライザの各設定についてグラフ表示できる他、チャンネルデバイダとイコライザの各設定を合わせた総合表示もできます。こうしたグラフ表示は、周波数特性を直感的にとらえることができるため、操作に実感がもてます。

例えば、コンプレッションドライバーの低域側を欲張った場合、ドライバーの負担がどの程度増えるのか、というようなことをすぐに知ることができます。2446Hの推奨最低クロスオーバーである500Hz(12dB/oct)と、350Hz(24dB/oct)とを4ウェイモードで同時に表示させれば一目瞭然です。さらに、Q値を変えてみるとどうなるのか、というような比較が簡単に行えます。

こうしたグラフ表示をパネルに設けられている小さな液晶表示で行う他の機種が存在しますが、かなり高価な機種でもグラフ表示が荒く見にくいようです。チャンネルデバイダやイコライザの設定は、トーンコントロールのように気軽に行えるようなものではありませんから、コンピューターを立ち上げる手間があっても実用上問題にならないと思います。

一方、コンピューターに操作部と表示部を委ねてしまうというブラックボックス型のD1000の使い勝手は、メモリーが3つしかないという点でいただけません。最低でも10個ぐらいのメモリーを本体パネルの操作で呼出せるようにしておけば、聴き比べが楽だと思うのですが。

製造中止は残念です。D1000のような機器は、業務用の機器も使うようなマニアが購入層なので、価格競争も含め、おいしい商売にならないのでしょう。DAコンバータが6基搭載されていれば話は変わったかも。しかし、4mのシリアルケーブルが付属していたり、マスターボリュームのリモコン操作ができるなど家庭で使うには良く考えられていると思います。

チャンネルデバイダ部について
チャンネルデバイダ部は、fc、遮断特性(6dB、12dB、18dB、24dB/oct)、遮断特性のQ値、減衰量、ディレイ、極性を設定することができます。そして、これらの値は、ロー側とハイ側の設定値が連動しておらず、完全に独立して設定できます。なお、遮断特性では、「6dB+12dB」という特性も選べます。

こうした様々な特性を選択できること自体は、大変結構だと思うのですが、どのような場合に使用すれば良いのか、また、その設定の具体例を示して欲しいと思いました。オーディオのデジタル機器全般(業務用も含む)に言えることだと思うのですが、ヒントやノウハウも同時に提供しなければ、多くの場合、宝の持ち腐れになると思います。

チャンネルデバイダ部は、ステレオ2ウェイの場合、L、R独立で設定できるため、例えば、ロー側だけ左右の音圧差を生じている場合でも、それを補正することができます。もちろん、左右のクロスオーバー周波数等を異なる設定とするようなことも可能です。

さらに、このチャンネルデバイダ部では、各帯域のロー側とハイ側を落とせるため、例えば、サブソニックフィルタや、ハイカットフィルタを設定することもできます。

さらに、ロー側にサブソニックフィルターを設定した際に、Q値を大きくしてゆくと、レゾナンスの領域が盛り上がり、最低域をブーストすることもできます。また、ロー側の低域側のフィルターとしてシェルビングの+24dBを選択し、fc1を20Hz、Q1を1、fc2を30Hz、Q2を3としますと、60Hzぐらいから下をブーストすることができます。最大値は、30Hzでの約+15dB、そこから急降下して20Hzでは−7dBとなります。

また、上記の定指向性ホーンのロールオフ特性と中域の張り出しの補正は、イコライザ部の貴重な1素子を割り当てなくても、このデバイダ部でまかなうこともできます。例えば、ハイ側の高域側のフィルターとしてシェルビング−12+を選択し、第2フィルタとしてシェルビング+12を選択します。シェルビング−12+のfc1を1500Hz、Q1を0.8、fc2を2000Hz、Q2を0.9とし、また、第2フィルタのfc1を2000Hz、Q1を0.7、fc2を4kHz、Q2を0.5とすると、似たようなカーブを描かせることができます。ただし、このやり方は、fcとQ値だけで設定しなければならないため、思った通りのカーブを作るのには根気が必要になります。

デバイダ部では、スロープの減衰特性の他、Q値を変更できます。このQ値の変更は0.3から7までです。Q値を大きくしてゆくと猛烈なレゾナンスのピークを作り出すこともできます。このスロープ特性も、ロー側とハイ側をそれぞれ独立して設定できます。

ところで、EQCDでは、デジタル領域でこれらの操作を行うため、予めデジタル信号領域において入力信号を減衰させておく必要があります。このデジタル信号領域における入力アッテネータは、0dB、−6dB、−12dB、−18dBに変更可能です。設定した最大ブースト量に合わせてこの入力アッテネーターを選択します。最大ブースト量にあわせて減衰量を決定できるので、アナログイコライザーよりも使いやすいと思います。

また、EQCDでは、「オプション」の「設定ステップ」で1dBステップか0.1dBステップかを選択することができます。デバイダ部のアッテネーターの他、イコライザ部のゲイン調整もこの選択が可能です。最初のころは、0.1dBステップなど細かすぎて不必要ではないかと思っていたのですが、1dBステップでは荒すぎて使いにくいことが分かりました。

イコライザ部について
イコライザ部は、モノラル5素子のパラメトリックイコライザです。パラメトリック(すそ野が等しい距離で広がるという造語でしょうか)イコライザのほか、シェルビングロー(緩やかな傾斜という意味です)、シェルビングハイ、ノッチフィルター(峡谷という意味です)が選択できます。

パラメトリックではfc、レベル、Q値を、シェルビングではfc、レベル、Q1値、Q2値という細かい設定ができます。パラメトリックは通常のもので、中心周波数(20から20kHz)、Q値(0.3から7)、ゲイン(±12dB)が変更できます。

面白いのは、シェルビングローとシェルビングハイの12dB/octです。これらの6dB/octは、プリメインアンプのトーンコントロールと同様の単なるシェルビングなのですが、12dB/octを選択すると、Q1値とQ2値を選べるようになります。このQ1値とQ2値を調整してゆくと、S字型を横にしたようなカーブを描かせることができます。

例えば、シェルビングハイの12dB/octを選択し、3kHz、Q1は0.8、Q2を0.5、ゲインを+6dBに設定すると、1kHzから3kHzまでをくぼませ、3kHz以上をなだらかにブーストすることができ、パラメトリック2素子を用いたようなカーブを作成することができます。これを上手に用いれば、定指向性ホーンの高域のロールオフ特性と中域の張り出しの補正を1素子だけで行うことが出来ます。

ノッチフィルターは、パラメトリックの最大Q値よりもさらに急激なカーブを作ることができます。ノッチフィルターの用途は、ハムノイズ、蛍光灯の高周波ノイズ、特定の周波数でのピーク除去です。不快感を与える周波数を除去し、オリジナル信号のバランスを損なわないために可能な限り狭い領域で使用することがコツだそうです。

今まで使用してみてモノラル5素子で十分でした。必ず使用しているのはパラメトリック3素子だけで、他の2素子は新しい設定を探る際に使用するだけです。ノッチフィルターは使用していません。

イコライジングに関するテクニクスのカタログ
D1000のカタログにのっている28素子グラフィックイコライザーの説明には、「ロック、ポップス系基本イコライジング例」として以下のような説明がされていました。

(1)31.5Hz、40Hz、50Hzの全てを10dB弱ブースト。これは、バスドラムのキックを前面に出し、ベースのうねりを強調すると説明されています。
(2)160Hz、200Hzの両者を8dB程度ブーストすると共に、315Hzから630Hzにかけて2dBから4dB程度ブースト。これは、中域を少し上げて、ボーカルのシャリシャリ感を押さえて、ふくらみを持たせると説明されています。
(3)2kHzを3dB程度ブースト。これは、ボーカルの音より少し高い帯域を持ち上げると、ボーカルの輪郭が際立つと説明されています。
(4)4kHzを6dB、5kHzを3dB、6.3kHzを3dB程度ブースト。これは、スネア(裏側に響線がついた小太鼓)をビシッと決め、サウンド全体も明るくヌケの良い音にと説明されています。

次に、「小型スピーカーを、大型スピーカーの様に再生してみましょう」として以下のような説明がなされています。

(1)40Hzを9dB程度ブースト。これは、重低音をアップと説明されています。
(2)100Hzを−7dB、160Hzを−8dBに下げて、ブーミーになるのを防ぐとしています。
(3)200Hzと400Hzを7dB程度上げ、中低域の音程をしっかりと出すとしています。

さらに、ユニバーサルフリケンシーイコライザー(11バンドのパラメトリックイコライザー)の説明には、「基本イコライジング例」として以下のような説明がされていました。

(1)50Hz付近を8dB程度ブースト。バスドラムのキックが前に押し出してくる感じを出す、としています。
(2)75Hz付近を4dB程度ブースト。ベースの動きをはっきりさせるとしています。
(3)500Hz付近を−2dB程度下げる。スネアの太い音を強調すると説明されています。
(4)2kHz付近を3dB程度ブースト。ボーカルの輪郭をはっきりさせ、スネアを抜けの良い音にする、としています。

これらの情報をまとめてみると、こんな感じでしょうか。
(1)40Hz付近を10dB近くブーストすると、バスドラムやベースが前に出る。
(2)200Hzから500Hzの中低域をブーストすると、ボーカルのシャリシャリ感が減る。
(3)2kHz前後をブーストすると、ボーカルがはっきりする。
(4)5kHz前後をブーストすると、明るい音になる。

さらに、SH−D1000にはAIEQというソフト(これもPAPというSH−D1000本体に付属のソフトが無いと動きません)があります。これは、X軸のプラス方向がシャープ、マイナス方向がソフトに設定され、また、Y軸のプラス方向がヘビー、マイナス方向がライトになるというものです。そして、XY平面上の任意の座標をクリックすると、それに応じて63Hzから16kHzの9つの周波数を示したレスポンスグラフが変化するというものです。

これによると、シャープは、125Hz、4kHz、8kHz、16kHzの若干のブーストと、250Hzから2kHzにかけての若干の減衰が特徴となります。ソフトは、63Hzの極端な減衰、250Hzから2kHzにかけての若干のブーストと、4kHz以上の若干の減衰が特徴となります。

一方、ヘビーは、125Hzの極端なブーストと、1kHzから2kHz間の若干の減衰が特徴となります。逆に、ライトは、125Hzの極端な減衰と、1kHzから2kHz間の若干のブーストが特徴となります。

ちなみに、シャープ(X軸最大値)、ヘビー(Y軸最大値)のグラフを読み取りますと、63Hzは0dB、125Hzは+5dB、250Hzは−3dB、500Hz、1kHz、2kHzはそれぞれ−2dB、4kHzは+3dB、8kHzは+1dB、16kHzはほぼ0dBという感じです。たしかに、250Hzから500Hzをへこませるとシャープな感じになります。

このAIEQというソフトから分かったことをまとめると、
(1)63Hzは、ソフトでは極端に減衰、シャープでも0dBという範囲で変化し、ヘビーとライトのいすれでも、ほぼ0dBで変化しないということです。
(2)125Hzは、ソフトとシャープの間ではほとんど変化しませんが、ライトとヘビーの間では決定的な役割を持っているようです。
(3)250Hz、500Hz、1kHz、2kHzは、ソフトとシャープの間でブーストと減衰、ヘビーとライトの間では、2kHzに向かって下降したり上昇したりします。
(4)4kHz以上では、シャープとソフトの間で増減がありますが、ヘビーとライトのいずれでも、ほぼ0dBで変化しません。

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