カタログ散策 04話 2360A

このホーンはJBLの最初の定指向性ホーンです。JBLはこの種のホーンをバイラジアルホーンと呼んでいます。2360シリーズは、ラジアルホーンの2350シリーズの後継機種として開発されました。そして、1980年代初頭から2001年まで20年間に渡り、JBLの大型ホーンの一翼を担いながら生産されてきました。この手の大型の定指向性ホーンは、ALTECやエレクトロボイスにも存在しますが、それらのベル部が平板な印象を与えるデザインであるのに対し、2360シリーズはそのベル部両サイドの大きなバルブ状の形状に特徴があります。

TADが最近この2360によく似た大型ホーンを開発し、JBLの5674によく似た新型の大型シネマスピーカーに使用しています。SONYも4675とよく似たシネマスピーカーシステム(SRP−SC1A)を作り始めました。このサイズやデザインは、まだまだ時代遅れになっていないようです。

2360という型番は、JBLがプロフェッショナル部門を立ち上げたころに使用したことがある型番であり、1971年のカタログに掲載されています。それは2×3セルの15kgほどの中型マルチセルラホーンです。同様に2370や2380(重さは46kgもあります)というお馴染みの型番も使用されており、どうして重複した型番を再度使用したのかは謎です。2360とかそういう型番が気に入っていたのでしょうか?このあたりはちょっとおもしろいですね。

2360には、2360Aと2360Bの二種類が存在します。2360Aのベル部は厚さ7.5mmものファイバーグラスにより強化されたウレタン樹脂製で、2360Bの方は自動車製造業で用いられているシート成型法で作られているそうです。もちろん2360Bは改良型であるため、2360Bの方がホーン曲面の精度が高いと思われます。このことは、周波数レスポンスグラフ等で比較すると荒れがすくなくスムーズであることからも分かります。なお、アルミ鋳造製のスロート部は共通のようです。

ファイバーグラス製のベル部には、おそらくアルミ製と思われる骨組みのようなものが仕込まれているようです。また、開口部の縁や角は、意外と硬くてもろく、欠けやすいので取り扱いには注意が必要です。もっとも、欠けてしまっても、パテで簡単に修復できます。

2360Aは1998年のカタログにも記載されているので、2360Aに対して2360Bはあまり多くは生産されていないと思われます。

尚、ホーンスタンドは2360A用の2506と2506Bの2種類と、2360B用の2506Cの1種類が存在します。2506は木製で角度調整機能を持ちません。2506Bは金属製になって角度調整が可能になりました。2506Bと2506Cの相違に関しては詳しい情報がないのでちょっと分からないのですが、CタイプがBタイプをよりシンプルな構成に改善したものであるようです。尚、2506シリーズは全て2365Aにも使用できるようです。

2360Aの兄弟分として2365Aと2366Aの2機種が存在します。2360Aが水平90度、垂直50度の近距離用、2365Aが水平60度、垂直40度の中距離用、2366Aが水平50度、垂直27度の遠距離用ということになっています(ちなみにこの数値はパンフレットによってまちまち)。もっとも、ここにいう近距離用、遠距離用というのは、こういうホーンを家庭に持ち込む場合あまり関係ありません。近距離用といっても、リスニングポイントまでせいぜい2〜5m程度という極めて短い距離を指しているとは思えないからです。

岩崎千明氏が「オーディオ彷徨」の中で、ラジアルホーンの2350と2355を比較したときのことをお書きになられています。指向性の狭い2355の方が、前に出てくるエネルギーが強く出て、中音域の音像が小さくなると指摘されていました。

2365A、2366Aはまだ販売中止になっていないようです(2002年8月現在)。それから、シート成型の新型が開発されたのは2360だけで、何故か2365B、2366Bは存在しません。2360のニーズが兄弟分の2機種に比べて大きかったからでしょうか?

2360Aと2365Aの最大寸法は795×795×815mmで共通していますが、2360Aが12.2kg、2365Aが11.3kgと2360Aの方が少し重いです。これは、2360Aのアルミ鋳造製スロート部分の長さが30cmあるのに対し、2365Aでは20cmだからだと思います。2365Aは開口寸法が795×795mmで2360Aや2365Aと同じですが、奥行きが1390mmと非常に深いです。ちなみに重量は16.3kgと重くなっています。

使用可能な低域限界周波数(Usable low frequency limit)は2360Aと2365Aが300Hz、2366Aが200Hzです。カットオフは、スロート部とベル部分という2つの形状の異なるホーンが組合わされているため、一般的なホーンと同列に考えることはできないと思いますが、2360Aの場合、およそ170Hzぐらいだと思われます。

推奨最低クロスオーバー周波数(Minimum recommended crossover frequency)は、2360Aの場合、2441、2445H/J、2446H/J、2450H/J使用時には500Hzです。また、2482、2485使用時には350Hzです。これは2365Aの場合も同じです。一方、2366Aになると2482、2485使用時は300Hzとなります。

ところで、この2360Aと組み合わせるべきドライバーは、何が良いのでしょう。

2360Aと2445のデビュー時期は一致しています。この両機種は、それまでのJBLのホーンシステムのあり方とはかなり異なっています。JBLにとって、2360Aは最初のバイラジアルホーンですし、また、2445は、最初のチタンダイアフラム搭載機種であると同時に、フェライト磁石を搭載した最初の2インチスロートのコンプレッションドライバーでもあります。おそらく、両機種は、同時に開発され、音合わせ等が行われたと予測できます。もしそうであれば、2360Aは、2445やその後継機種である2446との相性が良いのではないかと考えられます。

2360Aをネオジウム磁石の2450と組み合わせることも考えられるのですが、スタンドの2506シリーズと組み合わせると、重量が軽すぎるため、前後の重量バランスがうまくとれないかもしれません。また、低い方から使用するのであれば、高熱による減磁も心配です。しかし、ツィーターを用いない使用方法の場合には、2450と組合わされている例があります。5000番シリーズでは非常に小さなホーンと組合わされてツィーターとして用いられているところからみても、2450は高域のノビが期待できるからだと思います。

低いところから使えるという点では、フェノールダイアフラムの2485と組み合わせることも考えられます。ただ、これは、ダイアフラムの材質や質量の問題というよりも、エッジの材質による耐久性の相違に基づくものだと考えています。さらに、この2485の周波数レスポンスグラフを、2445、2446、2450のものと比べると、低域側の再生能力自体には、顕著な相違を認めることはできません。結局、連続入力で100Wの許容入力を保証できるかどうかという観点から、これらチタンダイアフラムのドライバーは500Hz以上が推奨クロスオーバー周波数となっているように思えます。

もっとも、この手のコンプレッションドライバーに連続入力で100Wを加えるというのは、おそらく家庭内では聴くことができない音量だろうと思います。何しろ、2360Aに2446を取付けたときの能率は、軸上で113dB(630Hz〜4kHz)に達するからです。

アキュフェーズの出原真澄氏は、山本工芸音響F280(カットオフ周波数280Hzの中型木製ホーン)にチタンダイアフラムである2450を組み合わせ、350Hzから使用されていました。カットオフ周波数の倍の周波数がクロスオーバー周波数の目安になると言われておりますから、そういう意味でも、家庭内における使用では、かなり低いクロスオーバー周波数から使用できそうです。

また、2446や2450の推奨クロスオーバー周波数が500Hz以上というのは、12dB/octという遮断特性が条件とされた場合の数値です。ですから、18dB/octや24dB/octという遮断特性を選択した場合、さらに低い周波数領域から使用できると思います。なお、こうしたことを試すのは自己責任です。

もっとも、低いところから使えることが、音の良し悪しに直結しているわけでもなさそうなので、それほど問題にしていません。それから、2485は、5kHzぐらいでストンとレスポンスを失ってしまうのでツィーターを選びそうです。こうした理由から、リブ付きチタンダイアフラム+フェライト磁石という2446Hを選択しました。

使ってみると・・・
使用しているのは2360A+2506Bの組み合わせです。ドライバーは2446H。これらを組み立ててみると、かなりの大きさになります。それから、奥行きも946mm(2360Aの奥行きが815mm、2446Hの奥行きが131mm)になるため、前方へせり出してきます。視覚的な圧迫感が非常に強く、残念ながら家庭内での使用はお勧めしかねます。

肝心の音ですが、これは予想をはるかに越えていました。音像が確実に前に出ます。それから非常にリアルで、今まで聞き取れなかったような細かな音や雰囲気のようなものをキチンと提示してくれます。大音量にしてもホーン臭くなったり、音がダンゴになることもありません。それから、2155Hのホーン部と比べても、ボーカルの口が大きくなったり、音像がおかしな具合になることもありません。その昔、ジャズ喫茶で聴くことができたホーン達とは異なります。

なお、大音量にするとホーンの縁周辺がかなり振動します。金属製ホーンのような鳴きはありません。ベル部分全体の剛性を適度に落として鳴きのコントロールをしているように思います。

また、スタンドを用いずに、ウーハーの箱の天板にベル部の縁を載せて設置するのは、さらにホーンの振動を増加させると思います。安全な設置のためにもスタンドの使用をお勧めします。

今になって思うと、1.5インチスロートの2352、2353、2354という新しいホーンの方が家庭では使いやすいと思います。このうち、JBL伝統の1フィートのホーン長を備えた2353が、高域のロールオフも少なく使いやすそうです。なお、2360Aは、周波数レスポンスグラフを見ても分かるように、高域のロールオフだけではなく、かなり強いかまぼこ型ですから、イコライジングが必須です。2ウェイや3ウェイで使用する場合、一部のアナログチャンネルデバイダーに組み込まれているようなバイラジアルホーン用フィルターでは補正しきれないような気がします。

バイラジアルホーンのセッティングについて、内側に振ったほうが良いというような話を聞いたことがあるのですが、これは、おそらく小型ホーンと1インチホーンを組み合わせた場合の話であり、音像が十分に濃い2360Aでは、ほぼ正面向きでもその必要性を感じませんでした。

2360Aには、ホーン部分の形状において前期型と後期型の2種類があるようです。奇しくも、中古で入手した2本の2360Aは、それぞれ前期型と後期型になってしまい、左右チャンネルが異なるホーン形状になってしまいました。形状が異なるのですから、何らかの音の差が聴き取れるはずなのですが、注意深く聴いても、自分にはその差を確認することができませんでした。少し残念です。

前期型は後期型に比べると、スリットの縦方向の寸法が長く、また、スリット開口部の両側の角部形状がシャープです。なお、スリット内部の水平方向の幅は完全に同一です。カタログでは、両ホーン形状を、それぞれ4675Aと4675Cの写真で確認することができました。おそらく、2360Bのホーン部分の形状は、2360Aの後期型のそれと同じではないかと思っています。

また、前期型と後期型のアルミ鋳物製のスロート部分は、全く変更されていません。このスロート部分は、2360Bでも同じようです。

2360Aのセットアップですが、JBLのCINEMA SOUND SYSTEM MANUALの23ページに組立図が掲載されていますので、これが参考になります。また、ドライバーの2446と組み合わせた際の諸特性の解説が10ページに掲載されています。

2360A、スタンドの2506B、ドライバーの2446Hとを組み合わせて組み立てるのは、なんとか一人でできます。しかし、安全に組み立てるために、友人と二人で組み立てることをお勧めします。

以下の組立て手順は、自分で考えたものですので、参考程度に留めておいて下さい(事故等が発生しても責任はとれません)。

最初に、2506Bのブラケット部を取外しておきます。この2506Bは、台座部、ブラケット部、そして2本のステ−部から構成されています。次に、2360Aのベル部、パッキン、スロート部の順で6本のボルトを通します。さらに、取外してあるブラケット部をこれに組み合わせボルトを通します。そして、この6本のボルトをナットで締付けます。ワッシャーやスプリングワッシャーの取付け方は、上記のマニュアルを参考にしてください。

次に、台座部に2本のステ−を仮止めしておき、台座部をブラケット部に取付けます。それから、ステ−をブラケットにしっかりボルト止めします。そして、最後に2446Hを取付けます。2446Hは14kgほどにもなりますので、なにか支えになる物を用いてスロート部分の高さが同じになるようにして取付けないと、大変危険です。足の甲の上に落としたりすると骨折すると思います。

注意する点は、ともかく2446Hが重くて危険であるということです。それから、2360Aのベル部、パッキン、スロート部と2506Bのブラケットを6本のボルトで締付けるボルト類を少し小径のものに交換したため、ベル部とスロート部の接続部分に上下方向の若干のずれが生じました。小径のボルトに交換した場合には、ベル部とスロート部の接続部分を揃えながらナットで締付けてください。

2446Hを組み付けると、コトンと2360Aのベル部が持ち上がり、2506Bが自立します。前後の重量バランスがとれたためです。2本のステ−で調整する上下角度を水平にしておけば、幾分ドライバー側に重心がくるため、前のめりにはなりません。これで一安心です。

組みあがったらウーハーの箱の上に設置するわけですが、組みあがった2360A+2506B+2446Hは相当な重さ(4675Cのパンフレットによると、この状態で43.6kgと表示されています)ので、腰に自信がなければ、一人で持ち上げるのはおやりにならないほうが良いかと存じます。また、2506Bの台座底面に木ネジ等による取り付けスリットがありますので、安全のためにも木ネジ等でウーハーの箱の天板に固定することをお勧めします。

ウーハーとの位置関係は、4675を参考にし、2506Bの台座後縁がウーハーの箱(奥行き471mm)の天板後縁に一致するように取り付けました。本来ならば、色々な位置を試すべきなのでしょうが、重い上に非常に不安定なので移動させるのが恐ろしく、他のポジションでは試していません。

尚、2360Aのベル部には、縁の近くに2個の小さな穴が設けられています。固定用のチェーンやワイヤー等を引っ掛けるための穴だと思うのですが、これをどの様に使用するのかは、よく分かりません。上記のマニュアルだと、下縁にくるように描かれていますが、目につくため、上縁にくるようにして使用しています。

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