カタログ散策 03話 5000番シリーズ

5000番シリーズは3ウェイ大型シネマスピーカーです。JBL版のボイスオブザシアターという位置付けになると思います。スピーカーシステムなのに5000番台の番号を与えたところに、JBLの意気込みが感じられます。でも、中域ホーンの2392と3インチスロートドライバの2490Hも単品での販売が終了してしまい、少し寂しい状況になってきています。この5000番シリーズは5671、5672、5674の3機種から構成され、末尾の数字がウーハーの数を示しているようです。

飾らない素朴な雰囲気が自作システムみたいで気に入っています。確かプロサウンド誌だったと思うのですが、その新製品紹介欄で、はじめて見たときからファンになってしまいました。ちなみに、現物は一度も見たことがありません。

劇場用のスピーカーというのは10年も20年も、場合によっては30年以上もスクリーンの裏側にほっておかれるそうです。スタジオモニターみたいにあれこれご機嫌をとってくれる人もいません。フレームの縁まで真っ黒に塗られ、埃まみれでメンテナンスもろくに受けずに安定した性能を持続させなければなりません。もちろんほぼ例外なく年から年中、それも毎日長時間働かされているはずです。

カビだらけになり、減磁で体調を崩したり、ねずみに齧られたりとそりゃ大変だと思います。その代わり、野外コンサートのPAみたいに移動する必要がないから軽量化や設置容易性という要求はさほど大きくないと思います。

こうしたシネマスピーカーでは、ロック向きとか、クラシック向きとか、そうした言い訳?はしてはいけないことになっています。台詞の囁きから途方もない爆発音までを、それっぽくこなさなければならないからです。ある意味で苦労人。だから、長い長い音道楽の相棒にするには、もってこいのスピーカー達かもしれません。


5671
5000番シリーズの末弟です。これだけ大きなホーンにシングルウーハー(2226H)というのが頼りなく見えます。でも、見慣れてくるとなかなかマニアックな感じがして面白いと思うようになりました。総花的ではなく「大型ホーンが好きだ」というすっきりした主張のシステムに見えてくるからです。



低域をダブルウーハーにしないと大きなホーンとは釣り合わないように思えるのですが、こうした製品があるところを見ると、シネマスピーカーの世界ではそういう考え方をしていないようです。量感や超低域がさらに必要な場合には、ダブルウーハーにするのではなく46cm等のサブウーハーを加えることにより解決するという方針があるみたいです。要求される最大音圧レベルをクリアできるなら、シングルウーハーでもかまわないということなのでしょう。

兄貴分の5672のダブルウーハーや5674の4発ウーハーは、より大きなホールに使用されることを前提としています。スピーカーから一番離れた席でも充分な音圧を提供できるように、ウーハーの数を増やしたということです。

中域ホーンは3インチスロートの2392そのものではなく、2392の縁部分をウーハーのエンクロージャー(4507A)の幅に合わせて上下左右辺を共に切り落とした2392S(2392−1)と呼ばれるホーンです。箱の寸法にあわせるとは大胆です。末尾のSはスモールの頭文字だと思います。

5000番シリーズの中核となる2490Hは唯一の3インチスロートドライバーです。ダイアフラム径は4インチで、材質は厚めのチタン製。単品での販売は中止されているらしく、JBLプロフェッショナルのサイトでは既にビンテージとして取り扱われています。後継機種はCMCDということになります。

高域は、1.5インチスロートの2451Hドライバーと2332ホーンの組み合わせです。なお、このホーンは単品で販売されていません。ところで2451Hの代わりにフェライト磁石の2447Hを用いないのは何故なのでしょうか。システムの軽量化の要請は高くないと思います。そうすると音質の差なのでしょう。周波数レスポンスグラフを比べてみると、2451Hでは高域の15kHzに強いピークがあります。そのため、2451Hの方が相対的に高域にアクセントがあるように聞えるのかもしれません。また、ツィーターとして使うなら、高温になりにくいため、ネオジウム磁石でも長期間耐えられると判断してのことだとも思います。

本システムは、マルチアンプで駆動されます。推奨クロスオーバー周波数は、320Hzと2.3kHzです。

家庭内で使用するなら、5000番シリーズの中では一番現実的な機種だと思います。しかし、320Hzのクロスなので38cmウーハーの代わりに46cmウーハーを使ってみたい気もします。


5672
38cmダブルウーハーなのに、それが全く目立たない珍しいシステムです。箱の幅が中域ホーンよりも狭く視覚的にかなり不安定です。でも、劇場で使用する場合はホーンを取り付けた上部バッフル板(ホーンブラケット)は吊るして固定するので大丈夫です。このバッフル板は客席の方へ向かって少し傾けて使用します。



この5672の設置面積と4発ウーハーの5674の設置面積は、いずれも中域ホーンの大きさになりますから、購入するのであれば5674を選びたいですね。5672が一本130万円、一方5674が一本150万円なので、価格的にも大差ない?からです。それにしても凄まじいお値段です。これにJBL純正のデジタルコントローラーのお値段を加えると・・・。

2発の2226Hウーハーを収めているのはおなじみの4508。このエンクロージャーは本当に長いあいだ作られてきました。中域は2392ホーンと2490Hドライバーの組み合わせ。高域は2352ホーンと2451Hドライバーの組み合わせ。2451Hは1.5インチスロートが採用されていますが、ダイアフラムの直径は4インチで2490Hと同じなのですから、ダイアフラムの厚みが違うとはいえちょっと妙な感じもします。オーディオ的には、1インチスロートの2426H+2370Aの方がよさそうに思えます。

本システムもマルチアンプで駆動されます。推奨クロスオーバー周波数は、297Hzと2.5kHz。これは、5674でも同じです。


5674
5000番シリーズの長男です。JBLの歴代フラッグシップ達の中でも指折りの超大型機種。ちなみに家庭用のハーツフィールド、パラゴン、オリンパス、エベレスト、K2シリーズのS7500,S9500、M9500、S9800やスタジオモニターの4341、4343、4344、4344mkU、4345、4348、4350、4355、4435といった人気の横綱、大関クラスとは一線を画する巨大サイズ。もちろん用途がちがうからです。

同類はALTECのA4クラスの劇場用スピーカーです。この手のウルトラ級スピーカーは使いこなせれば天国を垣間見ることができるかもしれません。一軒買い与えてひっそり囲うのが吉かも。



ところで4発ウーハーの配置が特徴的です。この配置にJBLは、Diamond Quadという名前(商標)をつけています。始めて見たときは違和感があったのですが、見慣れてくるとだんだん合理的に思えてきました。JBLのデザインは斬新だけど理論的にも説得力があることが多くて惹かれれます。4発ウーハーだとサイコロの4の目状配置が一般的ですが、Diamond Quadを見た後だと、このサイコロ型配置ではユニット間の干渉が多そうに思えてくるから不思議です。

ダクトの大きさも印象的です。4発もウーハーがあるので、計算上はそんなに大きくない(業務用として)とは思うのですが、38cmウーハーの大きさとほとんど変らないほどのダクトを見たことが無いので、やはり凄い迫力です。このダクトをじっと見ていると、こいつはもしかすると上のダクトが排気用で下のダクトが吸気用ではないかと思うようになってきました。2226Hのベンテッドギャップクーリングの磁気回路背面にある3つの排気口から排出された熱気が上のダクトから放出され、代わりに下のダクトから冷たい新気が自然に引き込まれるということではないでしょうか。そうだとすると、これはオートバイのレーサーみたいな効率最優先のマシンかもしれません。

凄い迫力は外観だけではありません。ウーハー部は縦軸2本と横軸2本のウーハーをそれぞれパラって独立してドライブするそうです。1台の5674のウーハー部には、一台のステレオアンプが必要であり、その左右チャンネルをそれぞれ縦軸2本、横軸2本のウーハーに割り振るということだと思います。

このため能率103デシベルで許容入力2400w!という桁外れの性能になっています。もともと2226Hは、JBLの歴代38cmウーハーや他社の主力ウーハーに比べると大入力に滅法強いそうです。ユニットの許容入力が600wあるというだけではなく大入力時のパワーコンプレッションが非常に小さいからです。ちなみにこのウーハー部のピーク最高出力は142.8デシベルに達します。こういう数値にはめったにお目にかかれません。クルマで例えるならほとんどオーバー400km/hの世界ではないでしょうか。こいつに1kWクラスのパワーを入れるとホーンロードスピーカーも裸足で逃げ出すかもしれません。もちろん、大きな音がすれば偉いと言う訳ではありませんが、映画館では1本で10本分以上の仕事を長期に渡ってそつなくこなすこういう信頼性の高いスピーカーが要求されるのでしょう。

それにしても、5674の実力を引き出すためには相応のアンプが必要になると思います。2226H(8Ω)をパラっているから普通のBTL接続では苦しそうです。そうすると片チャンあたり4Ω負荷で1200wを取り出せるアンプということになりますから、業務用でも力のあるアンプでなければ追いつきません。JBLのパワーアンプではMPX1200というのがあったのですが、これが4Ω負荷でぴったり1200w+1200w。こういうプロオーディオの猛者同士の組み合わせを聴いてみたいものです。

ところで箱のバッフル板は正方形です。普通こういう寸法配分は避けるのが常識ですが、JBLは平気みたいですね。いろんな箱を作って、しっかりデータとって、徹底的に試聴して追い込むのでしょうか。それともアメリカ人だから細かいことを気にしない?

ある日、人ならぬ道に走って「5674風」の自作を決意すると…。製造中止になってしまった3インチスロートの2392と2490Hを探すのは大変なので、その代わりに手持ちの2360Aと2446Hを使います。ツィーターも手持ちの2402H−05。2226Hが4発で15万円ぐらい。箱の材料費を合わせて一本20万円ちょっとぐらいで作れます。5674がA5だとすると5674風はA7といったところになるかもしれません。

箱は、幅と高さが120cm、奥行き60cm(本物は1118mm×1118mm×623mm)。一本あたり120×240cmの合板2枚を使えば板取りも非常に簡単です。さらにサブロク1枚で補強材等を確保します。バッフル板は穴だらけなので2枚重ねにしておいた方がいいかもしれません。それなら、もう半枚追加です。しかし、4本の38cmウーハーをまともに動かすには、ある程度の音量が必要ですし、常に大音量で聴くわけでもないので、やっぱり夢の中の話でしょうね。

5674のデータ
サイズ 2895.6×1118×812.8mm (A4よりも少しだけ背が高いですがスリムです。こういうのもトールボーイ型と呼ぶのでしょうか?)
重量 171.69kg (A4は300kg近かったのでずいぶん軽い?です。)


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