カタログ散策 02話 2446H

このユニットは、外観がこれとそっくりの2445H/Jの後継機種になります。直径23.5cm、重さが13.8Kgもある大きく重いコンプレッションドライバーです。コヒーレントウェイブフェージングプラグを導入したことと、ダイアフラムに放射状のリブを設けたことが2445からの改善点。現在、2インチスロートのドライバーとしては、2446の他に高性能なネオジウム(neodymium/ネオディミウム)磁石を使用した2450H/Jがあります。

コヒーレントウェイブフェージングプラグとは、ダイアフラムからスロート側出口までの通路の長さが同じになる環状隙間構造を備えたプラグのことです。要するに、フェージングプラグ内にある複数の音道の長さが揃えてあるということです。これにより、ドライバーのスロート部分の根本で合流するダイアフラムからの出力が同位相になり干渉が起こらないそうです。考えてみると当たり前の話のような気がします。効果として、2445以前の旧型フェージングプラグの使用可能帯域よりも高い帯域において音圧の向上をみることができるそうです。

それにしても、名器375を含む2445以前の製品は「音道の長さが違っていた」という事実の方が少し驚きです。ミリ単位の位相にうるさい日本のマニアにとって、音道長が異なるというのは、あまり気分の良い話ではないように思います。

ダイアフラムの放射状リブは打ち出し加工されたもので、ダイアフラムの強度を増大します。このダイアフラムは、コヒーレントウェイブフェージングプラグとあいまって、5KHzから20KHzの帯域の音圧増加を図ることができるそうです。でも、ダイアフラム自体の設計がうまくいっていれば、こういうリブは本来的に不要だということを長岡鉄男氏がお書きになっていたような記憶があります。

このコヒーレントウェイブフェージングプラグとラジアルリブダイアフラムは1.5インチスロートの2447H/Jと2451H/Jにも採用されています。4インチダイアフラム+3インチスロートの2490になると話はだいぶ違うようで、コヒーレントウェイブフェージングプラグとラジアルリブダイアフラムのいずれも採用されていないようです(未確認)。

2446は2445と比べて高域特性が改善されたそうです。周波数レスポンスグラフで比較すると2446には13kHzを中心にした小さな山があります。大型コンプレッションドライバーにとって高域へ向かっての広帯域化が重要な技術的課題の一つなのでしょう。

2450と2446を比較すると2450には15kHzにピークがあり、さらに高域のノビを感じさせるように演出されているようです。2446と2450のダイアフラムは共通するので、フェージングプラグやバックチャンバー等の形状や構造上の相違からこうした差が出ているのだと思っています(どういう相違があるのかは未確認)。なお、2450はネオジウム磁石であり2446はフェライト磁石ですが、どちらも磁束密度は19000ガウスで変わりません。Blファクターの数値もJタイプで18N/Aとこれも同一です。

磁束密度のデータが出てきたついでに、歴代ドライバーのスペックを比較してみましょう。

2440
アルニコ 20500ガウス 500〜12kHz 0.08mmアルミダイアフラム

2441
アルニコ 18000ガウス 500〜18kHz 0.08mmアルミダイアフラム
 
2445
フェライト 19000ガウス 500〜20kHz 0. 05mmチタンダイアフラム

2446
フェライト 19000ガウス 500〜20kHz 0. 05mmラジアルリブチタンダイアフラム コヒーレントウェイブフェージングプラグ

2450
ネオジウム 19000ガウス 500〜20kHz 0.05mmラジアルリブチタンダイアフラム コヒーレントウェイブフェージングプラグ

2447
フェライト 18500ガウス 500〜20kHz 0.05mmラジアルリブチタンダイアフラム コヒーレントウェイブフェージングプラグ (本ユニットは1.5インチスロート)

2451
ネオジウム 19000ガウス 500〜20kHz 0.05mmラジアルリブチタンダイアフラム コヒーレントウェイブフェージングプラグ (本ユニットは1.5インチスロート)

2490
フェライト 15000ガウス 不明 0. 08mmチタンダイアフラム (本ユニットは3インチスロート)

2482
アルニコ 17000ガウス 300〜6kHz 0.23mmフェノールダイアフラム

2485
フェライト 19000ガウス 300〜6kHz 0.23mmフェノールダイアフラム

こうしてみるとアルニコ磁石やネオジウム磁石だから磁束密度が高いというものでもないようです。特に、アルニコの2482の17000ガウスと2441の18000ガウスは、2インチスロートドライバーの中では数値が小さいようです。また、2490の15000ガウスなどから考えるとドライバーであってもウーハーと同様に磁束密度が高ければよいというものでもなさそうに思えてきます。

また、375のプロ版である2440の磁束密度は20500ガウスと高いですが、アルニコ磁石は、業務用として使用すると、10%〜20%程度、時として50%低下することがボイスオブシアターのメンテナンスに関する米国の文書に掲載されていました。したがって、定期的な再着磁等を行っていないのであれば、このような磁束密度の比較を行っても現実的には無意味なのかもしれません。もっとも家庭内で穏やかに使用している場合、どの程度の減磁現象が生じるのかは不明です。

2441(376)から導入された三次元ダイアモンドパターンのエッジは日本の折り紙が開発のヒントになったそうです。その後のチタンダイアフラムにもこのエッジが使われています。

アルミダイアフラムやアルニコ磁石は「音がいい」そうです。ただ、ホーンとの相性の問題というのもあるように思われます。

昔話ですが、無線と実験誌のインタビュー記事で、SONYの技術者が、SONYがはじめて作るドライバーに使うダイアフラムの材質の選択についての話を読んだことがあります。ドライバー造りに経験がありませんでした、と語るSONYの技術者による最終的な評価は、アルミダイアフラムが良かったというような結論だったのですが、その比較試聴にどのようなホーンを使ったのかは書いてありませんでした。そのインタビュー記事ではJBLやTADとの互換性をさかんに強調していたところをみると、当時人気の高かったTADの中型木製ホーンを付けての試聴だったのかもしれません。おそらく、それが理由となりSONYのホーンは木製になったのではないかと思います。

ところが、SONYの映画館用のスピーカーシステムカタログ(2002年版)には、2360と同規模の大型ホーン(SRP−H1A)と、2446にそっくりなドライバー(SUP−T14A)が掲載されています。そのドライバーのダイアフラムは、チタンダイアフラムです。そのカタログには「抜けの良い鮮度の高い中高音を再生するチタンダイアフラム採用」と説明されています。チタンの方が強靭だからというのが本当の理由なのかもしれませんが、組み合わせているホーンとの音の相性もあったのではないかと思います。

チタンダイアフラムの2445と2360の発表時期は、ほぼ同時期でしたから、その開発も同時だったと思われます。2360のような大型ホーンだとダイアフラムへの負荷が大きく、アルミダイアフラムだと少し脆弱で、音が甘くなりすぎるのかもしれません。2490Hがチタンダイアフラムだったことからみても、ショートホーンや中型の木製ホーンと組み合わせると少し厳しい音がするチタンダイアフラムの方が、大型ホーンとの相性が良いのではないかと思っています。

チタンダイアフラムと一口に言ってもJBLには様々なタイプがあります。2445ではプレーンな形状で頂部に鳴き止めのシールが貼付されたタイプ、2446と2450ではラジアルリブが設けられたタイプ、そして、475Ndではプレーンな形状ではあるもののアクアプラスが塗布されています。そして、これらのドライバーの磁気回路は、フェライト、ネオジウム外磁型、ネオジウム内磁型という相違があり、また、2445は、コヒーレントウェイブフェージングプラグではありません。

もっとも、至近距離で聴くことになる家庭内での使用では、厳しい音が出にくいアルミダイアフラムの方が良いのかもしれません。例えば、4348では3インチアルミダイアフラムが採用されました。S9500やM9500では、2ウェイだったため、高域にアクセントをつけるためにチタンダイアフラムを採用したとも考えられます。また、業務用の2402H等のツィーターではアルミダイアフラムを、業務用の2425、2445等のコンプレッションドライバーではチタンダイアフラムをと、長い間使い分けてきたところからも、ドライバーのダイアフラムの材質は、適材適所で使い分けられていると考えた方が良いのかもしれません。

しかし、悲しいことに、アルミダイアフラムがいいとか、アルニコ磁石がいいといった楽しい伝説も4インチダイアフラムに限ってはそろそろ終わりになるかもしれません。実は、最近のJBLのカタログ等を見ていると、4インチダイアフラム+2インチスロートのドライバーの将来は絶望的(大げさ?)に思えるのです。

4インチダイアフラムと2インチスロートを組み合わせたドライバーの基本構造は、ご存知のように大昔のWE594ドライバーに由来していますが、こうした古いドライバーのスロート部分のイニシャルフレアレート(スロート開始部分の音道の広がり率)をJBLが算出したところによると160Hzに合わせてあるそうです。これは当時の劇場用の大型低音ホーンに合わせて設計されたことが原因だとJBLは指摘していました。現在では、ウーハーの高域側の特性が改善されたため800Hzという比較的高いクロスオーバー周波数が主流となっていますが、これとは大きな隔たりがあります。また、古いドライバーの磁気回路は内磁型構造(アルニコや励磁型など)を採用していたため、どうしてもスロート部分が必要だったのですが、フェライト磁石やネオジウム磁石ではスロート部分を構造上必要としません。こうした理由から、JBLは伝統的な4インチダイアフラムをそのまま生かし、スロート部分を持たないドライバーとして1.5インチスロートの2447と2451を開発しました。

しかし、この2447や2451の将来さえも不透明のようです。何故なら、JBLは2インチスロートが気に入らないだけではなく、4インチダイアフラム自体が「もはや大きすぎる」と考えているようなのです。

2226Hのような広帯域を低歪みでカバーできるウーハーが普及してゆくと、ドライバーの低域側が楽になるので、ダイアフラムを少し小口径の3インチに抑えることができます。そうすると、その分高域を伸ばすことが可能になり、ウーハーとホーン+ドライバーを組み合わせた2ウェイでは、よりワイドレンジなシステムを実現できるからです。

JBL最初の3インチダイアフラムのドライバーとして2430Hがあります(単品での販売は行われませんでした)。大型同軸ホーンのPD743やPD746(大型ホーンの話を参照)のパンフレットによると、この2430Hは、1.5インチスロートであり、ネオジウム磁石を備え、重さ1kg、直径は10.8cmという大変小型のドライバーであると紹介されています。

この2430Hの小型軽量ぶりは次世代コンプレッションドライバーのフラッグシップとしてのインパクトがありました。現在では、2431や2435という改良型も存在します。2435は、ベリリウムダイアフラム、新しい2ステージフェイジングプラグ等が採用されています。S9800、S5800、4348に採用された435Beや435Alは、こうした一連の流れの中で出現した3インチダイアフラムのドライバーです。

健全なメーカーならば技術を更新しながら先に進み、自然と古い製品は消えてゆく運命にあります。JBLもそういう意味では健全なメーカーだということです。もちろん、2インチスロートドライバーの交換等の需要は当面続くので、すぐに2446や2450が入手できなくなるようなことはないと思います。しかし、4インチダイアフラム+2インチスロートドライバーの新型が開発される可能性は、ほとんどないと思います。

2360Aを購入したのは、コンプレッションドライバーを用いたJBLの最後の大型ホーンになるのではないかという予感があったからです。それにしても、4インチダイアフラム+2インチスロートのドライバーは、本当に長い間製造されてきました。技術的には新しい方向に進む時期がきているのかもしれません。

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