カタログ散策 01話 ウーハーのお話

過去のオーディオブームでは、38cmウーハーの人気が凄かったです。当時の最高機種の代名詞という感じでした。1970年代の長岡鉄男氏も38cmウーハー並みの、あるいは、それを超える音を出せるという意気込みでバックロードホーンの制作をされていたように思います。しかし、そういう時代も過ぎ去って、今ではごくごく常識的な小口径ウーハーの時代になってしまいました。大口径を家庭に導入しようとすると箱が大きくなりすぎるので、これは当然の流れでしょう。

JBLの38cmウーハーの特徴や分類に関しては、JBLのテクニカルノート Vol.1 Choosing JBL Low Frequency Transducers に詳しく解説されております。

ここでは、振動系の実効質量だけで、簡単に5つの系列に分類してみました。第1の系列はD130の系列。実効質量は60gです。この60gというのは後継機種においても厳格に維持され、末裔のE130までぴったり同じ60gでした。プロ版の2135、後継機種のK130も同値です。

第2の系列は、D130のウーハー版である130Aの系列です。センターキャップが布製になっただけではなく実効質量も10g増加し70gになっています。2220A/B、2220H/Jも70g。なお、面構えが2220と良く似ていた2227Hという最近のウーハーがありました。これはホーンロード向きとされているにもかかわらず実効質量は99gもあります。この2227Hというウーハーは、E140、E145、2225、2220等の代替用で、比較的小さな箱のステージモニター用やホーンロード用に開発され、スーパーベンテッドギャップ構造を備えています。おそらく、ホーンロード用に用いられている2220系の最後のリプレイス用として開発され、需要が尽きたと判断された段階で生産中止になったものと思われます。

第3の系列はLE15Aの系列です。LE15Aは初期のモニタースピーカーのウーハーとして活躍しました。実効質量は97g。プロ版の2215Aも97gです。PA用のウーハーとして開発された2205とその後継機種である2225の実効質量は105g。さらに、その後継機種である現行の2226の実効質量は98gです。ただし、この2226はベンテッドギャップクーリング等の技術が盛り込まれており、それ以前のJBLのウーハー達とは毛色が異なります。実効質量100g前後というこの系列が、JBLのウーハーの主流ということになりそうです。

第4の系列は2231Aや2235Hの系列です。2231Aが151g、2235Hが155gです。スタジオモニター系のウーハーが重苦しいとか引きずるような音だという話を聞きますが、スタジオモニターシリーズには、この系列のウーハーが搭載されているものがありました。

第5の系列は150−4Cです。パラゴンやハーツフィールドに搭載されたD130の強力版です。実効質量はよく分かりません。フレームの形状からK145(75g)やE145(55g)がこの系列に属すると思のですが、この通り実効質量はバラバラです。なお、楽器用にM151−8(70g)という3インチボイスコイルの38cmフルレンジユニットがありました。用途や型番からするとJBLはこのM151−8が150−4Cの後継機種と位置付けていたのかもしれません。

D130と130Aは、JBLの原点としてオーディオマニアから支持されてきました。ランシング氏の遺産だからです。また、D130は075と組み合わせることで全帯域をカバーできるため、ここから始めるパターンがあったように思います。

D130の第1の系列は楽器用のE130として最近まで生き残っていたのですが、日本では残念ながら販売中止になってしまいました。130Aの第2の系列は、ホーンロードエンクロージャーと共に、ずいぶん以前に製造中止になりました。

しかし、この第1と第2の系列の38cmウーハーに代わるものとして25cmウーハーの2012H、30cmウーハーの2020Hがラインナップされています。2020Hの実効質量は44gであり、同じ30cm口径の2202A(H)の50gや2206Hの65gに比較すると非常に軽量な振動系を持っています。2012Hと2020Hは、いずれも巨大な磁気回路を搭載する強力なユニットです。

2012Hと2020Hについて、JBLはホーンロードをかけることに適していると紹介しています。低音域をホーン型にすると、かなり大型の箱でも最低域を十分に確保することはできません。このため、サブウーハーを必要とします。それなら、反応も早く、高域が伸びる25cmや30cm口径の方が使いやすいと考えているのでしょう。4520や4530、それから長岡鉄男氏設計の20cm用バックロードホーンの名作を参考にしながら、これらのユニットを使った巨大バックロードホーンを製作してみたい、なんて考えてしまいます。

次に、第3の系列は、現行の2226Hとして継続しています。これは、LE15A系とは別の2205Aから始まったPA用のウーハーの現行版であり、現在のJBLの看板的なウーハーです。減磁をおこさないフェライトの磁気回路は、最適化を図ったため軽く、また、箱の容積が小さくてもすむようにf0も高めに設定されています(ハイコンプライアンスユニットとは考え方が異なります)。こうしたことから、オーディオ用としては今一つ魅力が無いように思えるのですが、JBLのカタログには精密モニター用にも理想的であると紹介されています。おそらく、PA系列のウーハーは、他社製品との激しい競争の中でどんどん改善された結果、2226Hに至ってPAとスタジオモニターの両方の用途に用いることができるようになったと考えられます。過酷な条件下でも高能率で低歪みの再生が可能になったということなのでしょう。

この2226Hは、発売されてかなりたちます。販売開始は、1990年だそうです。その後、ダイレクトクールドデファレンシャル ドライブとかネオジウムデファレンシャルドライブといった新型の磁気回路が開発され、それら磁気回路を搭載した2250シリーズが開発されました。また、2262Hという30cm口径のユニットもあります。しかし、これらのユニットは単品で販売されていません。その構成から見て高価になるからだと思います。安価な2226Hが供給されている現在の状況は、ちょっと退屈ですが、これはこれで良いのかもしれません。

JBLは、通常10年周期で新型に更新しているようなのですが、2226Hの性能が十分に高く、新型にする必要性がないと判断しているのかもしれません。極めて小さなパワーコンプレッションと600wもの許容入力、さらに、広帯域であるにもかかわらず歪が非常に少ないからです。また、軽量で安価であり、減磁やエッジの材質などの長期信頼性に関する問題もないからだと思います。磁気回路の重量が比較的軽いのは、不要な贅肉部分を削ぎ落としたというだけで、磁気回路は依然として極めて強力です。

なお、この2226Hというウーハーは、ベンテッドギャップクーリングや最適化されたフェライト磁石の磁気回路など革新的な考え方に基づいて開発されたウーハーなのですが、ランシング氏が設計したD130のフレームデザイン等を引き継ぐなど、JBLの伝統的な要素も色濃く残している不思議なユニットです。リプレイス用として、フレーム等の寸法が維持されているのかもしれません。

第4の系列の2235Hは、残念ながら生産終了になってしまいました。最後の銅線ボイスコイルのウーハーだと思います。そして、この系列は46cmの系列に格上げされたと考えています。2235Hは、最低域の再生に優れていたのですが、その目的を達成するには、さらに口径を大きくする方が有利です。このため、JBLは、こうした用途のウーハーとして、大きな実効質量の38cmから、46cmウーハーへ切り替えたのではないかと考えています。

現行の46cmウーハーとしては、2241Hと強力型の2242Hの2機種があります。46cm口径にも実は3つの系列がありました。第1の系列は、実効質量125gのK155とE155、第2の系列は、164gの2240H/Gと145gの2241Hと158gの2242Hです。そして、最後の第3の系列は、2245Hの185gというものです。

この内、第1の系列と第3の系列は失われてしまいました。おそらく、第1の系列は実効質量が軽すぎて46cmウーハーに求められる最低域の再生を満足させることができず、第3の系列の2245Hは少し重過ぎた、あるいは、能率が低かったからではないかと考えています。なお、この2245Hは、モニタースピーカーの4345や家庭用サブウーハーのB460に搭載されていました。

第2の系列の2241Hと2242Hは現行のユニットであり、2242Hが改良された強力型という関係にあります。JBLでは、2242Hが2241Hを更新する機種ではないとアナウンスしています。どうも用途が違うようです。

2241Hは、その先代にあたる2240Hよりも約20gも実効質量が小さく(38cmウーハーの2235Hと比較しても10gも軽いです)、JBLは精密モニター用にも理想的と紹介しています。このことから、2241Hは、サブウーハーのほか、通常のウーハーとして使用が想定されているように思います。一方、2242Hは、2241Hよりも実効質量が大きく、JBLはサブウーハー用と位置付けています。また、最近のJBLウーハーの中では、もっとも強力な磁気回路を備えています。

周波数レスポンスグラフ等を眺めていると、家庭用としては、2242Hよりも2241Hの方が使いやすいのではないかと考えています。これらの46cmウーハー一発用の箱は4518というバスレフ箱なのですが、これは、2226Hのダブルウーハー用エンクロージャーの4508と同じ大きさです。38cmダブルと46cm1発は迷うところですね。

このように、D130の第1の系列と130Aの第2の系列は、25cmと30cmのホーン用ミッドローユニットに引き継がれ、また、2235Hの第4の系列は46cmの大型ウーハーに引き継がれたと考えますと、失われたのは150−4Cの第5の系列だけということになります。

現行のラインナップは、用途ごとに最適な口径が選択されるようになったといえるかもしれません。2226Hの30cm版である2206Hだけが例外で、従来の口径ごとのバリエーションとして存在します。

ところで、JBLのウーハーシリーズの中では、2250シリーズという最新最強のシリーズがあります。これらは、ユニット単品では販売されていません。2250(20cm)、2251(25cm)、2254(35.5cm)、2255(38cm)、2258(46cm)が存在します。なお、2251は4348に搭載されています。38cmの2255は、3インチボイスコイルですが、NDD構造のため、6インチボイスコイル!と同等であるとしています。フェライト磁気回路+ダブルボイスコイルの廉価なシリーズを売り出してくれるとうれしいですね。

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