幸せの黄色いホーン 82話 ミッドベースユニット

ミッドベースユニットはPEAVEY社の1008−8HE BWXにしました。10インチ(25cm)のホーン用ユニットです。Fs62Hz、Qts0.303、Mms40.2g、4インチ径アルミリボンボイスコイル、重さ6.8kg。許容入力は、連続500W、プログラム1000W、ピーク2000W。姉妹機種にバスレフ用の1008−8SPSがあります。なお、ミッドベースの25cm口径で4インチボイスコイルを搭載した同類はMcCauley社の6328やD.A.S.Audio社の10−B、10−BNとごく少数です。



1008−8HEとその交換用バスケット(1008−8HE BWX RB)


30cmではなく25cmを選んだのは大昔にコーラル社の10F−60という25cmフルレンジユニットと使っていたため親近感があるからです。また、25cmという口径は大口径ウーファーで感じられるような面で押してくる雰囲気がなく、2392+2490Hの低域側の領域を濁らさないのではないかと思ったからです。

他社のミッドベースユニットも検討してみました。でも、JBL社の25cmは3インチボイスコイル、EV社では2.5インチボイスコイル。これでは地味目のミッドベースユニットのイメージがさらに地味な感じに。でも、ミッドベースユニットって割と本音で作れる明るい性格?のユニットなんです。ウーファーユニットやフルレンジユニットのように、あちらが立てばこちらが立たず、というようなジレンマに陥るようなことが少ないはず。

例えば、業務用ミッドベースユニットの多くはBLファクターが大きいです。このBLファクターというのはスピーカーの駆動力を示しています。単位はT/mまたはN/A。T/mというのはTesla-metersのことで磁気回路のギャップにおける磁束密度とそのギャップの磁界を横切っているボイスコイルの線材の長さの積。また、N/AというのはNewtons per Ampereの意味で、1Aをボイスコイルに流した際に、どの程度の力が発揮されるかを示しています。2つの単位はこのように考え方が違うのですが、1T/m=1N/Aであるため、どちらの単位を用いてもBLファクターの数値は同じです。

BLファクターを大きくしてゆくと駆動力が大きくなるため、同時にQ値が小さくなってしまい最低域が出にくくなります。でも、ミッドベースユニットなら最低域の再生能力は問われないのでQ値が小さくなってもあまり関係ありません。ウーファーユニットではBLファクターが大きくなると最低域が出づらくなるのです。

また、BLファクターを大きくするためには、より強力な磁石を使用するか、ボイスコイルの巻き数を増やせばいいのですが、ボイスコイルの巻き数を増やすとインダクタンスも増え、高域側のインピーダンスが上昇し高域が出にくくなくなります。大きな磁気回路を備えているフルレンジユニットのBLファクターが意外と小さいのはこのためです。

さらに、ミッドベースユニットでは、ウーファーユニットのようにコーン紙の振幅を確保する必要もありません。磁気ギャップからボイスコイルが外れるまで片道の振幅幅(しんぷくはば)がXmax。Xmaxを稼ごうとすると、ショートボイスコイル/ディープギャップタイプであろうが、ロングボイスコイル/ショートギャップタイプであろうがBLファクターは小さくなってしまいます。磁気ギャップの深さが深くなれば磁束はまばらになり、ボイスコイルの巻き幅を増やすにはまばらに巻くしかない訳です。(ショートボイスコイル等についてはハーマンインターナショナルの解説をご参照下さい。)

という訳で、ミッドベースユニットなら低音は出さなくてもいいよ、高音も出さなくてもいいよ、自由にやっていいよ、という甘い環境なのかというと実はそうでもなく、特にミッドベースホーン用のユニットは実効質量が重めであることに気付きます。ホーンロードがばっちりかけられた上に家庭用ユニットが一瞬で焼損するような入力に長期に渡って耐えなければならないのでコーン紙に高い剛性が求められているからでしょう。



QW−1


PEAVEY社は、1008−8HEを中高音用スピーカーシステムであるのQW−1に使用しています。QW−1は、ホーンと組み合せた1008−8HEを2本と、CH−642QTホーン+44XTを備えています。44XTは4インチダイアフラムのコンプレッションドライバーです。このシステムは200Hz〜18kHzを±3dBで再生することができるそうです。

QW−1は、QW−215とQW−218に組み合せ、4ウェイシステムにすることが推奨されています。QW−215はプロライダー15(1508−8ALCPなのか1508−8CUCPなのかは不明)を2本搭載した38cmダブルウーファーシステムであり、QW−218はローライダー18(1808−8HPS)を2本搭載した46cmダブルのサブウーファーシステムです。ホーンと組み合せた2本の1008−8HEは、計4本の大口径ユニットにバランスするだけの能力があることが分かります。PEAVEY社はQW−1以前にも30cmコーン型ユニットと組み合せた大型ホーンのミッドベースシステムを販売しており、この手のユニットやホーン型のミッドベースシステムが好きなのかもしれません。

1008−8HEはホーン用なのでホーンを製作しなければならないのですが、置き場所と気力、そして肝心の設計能力がないのでパス。パンフレットには8.5L、12.7L、17Lの比較的小さな3種類のバスレフ箱が推奨されていましたのでこれ幸いと小箱でお茶を濁すことにしました。しかし、大型のV字型バッフルを製作するという可能性(大抵は計画倒れです)もあるので左右計4本を購入。

21mm厚のサブロクシナ合板を1枚半使用。外寸は縦75cm×横30cm×奥行き28.2cm。内寸容積は約44L、実効容積37Lとなりユニット1本あたりの実効容積は18.5Lになりました。ダクト開口14cm×6cm、ダクト長9.2cm。ダクトの共振数は70Hzを少し下回る程度です。あまりのかわいらしさに製作はお手軽を極め大した苦労もなくあっさり完成しました。



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