幸せの黄色いホーン 77話 キール氏の論文

B&C社のME15+DE500を導入して、モノラル5ウェイへの挑戦を開始。2451Hの高域端側へのブーストを行うイコライザを外し、5kHzで2332+2451Hとクロスさせます。これはいい感じ。高域に繊細な感じが出てきました。

しかし、5ウェイにしたところで、74話でお話した「特定の帯域での強い刺激音」、これが未解決のままです。2451Hの帯域をイコライジングしても修正できないので、2490Hの帯域かも、と考えていました。また、74話のデジタルチャンネルデバイダ−の設定表で2490Hと2451Hとのクロスのカットオフ周波数(ハイカットが1.23kHz、ローカットが1.62kHz)が離れていることも気になっていたのです。ある日、2192のデジタルチャンネルデバイダ−設定表が他にもあることを思い出し、その設定表を74話でご紹介した設定表と見比べてみました。すると、全く同じクロスのカットオフ周波数が掲載されている・・・

これはミスプリではないな、と早速このクロス設定を試してみたところ、何とあの刺激音がフッと消えたのです。定指向性ホーンは、やはり測定してキチンと特性を把握しないとダメみたいです。

ところで、定指向性ホーンの歴史は30年以上前の1975年3月に発表されたDON.B.KEELE,JR.(ドン キール ジュニア)氏の論文「WHAT'S SO SACRED ABOUT EXPONENTIAL HORNS?」から始まります。この論文発表当時、キール氏はエレクトロボイス社に所属しておりました。その後、1977年から1984年までJBL社に所属しバイラジアルホーンを開発しました。キール氏は、定指向性ホーンの生みの親であると同時に育ての親でもあるわけです。

定指向性ホーンのお世話になっているので、この論文を要約してみました。誤訳&大誤解の可能性もあります。あしからず。

キール氏のこの論文は、エクスポーネンシャルホーン(指数関数ホーン)は、指向性の制御に問題があるという話から始まっています。また、エクスポーネンシャルホーンでは、その指向性がフレアレート(広がり率)に依存している点も指摘されています。この2つの問題を解決するために、ラジアルホーンとマルチセルラホーンが開発されたものの、いずれも指向性のパターンに問題がありました。また、周波数によって指向性が変化してしまうことも問題となったそうです。

指向性パターンの問題とは、下の指向性パターンのグラフのように、音圧の分布を示すラインがゆらゆらと波をうっていたり(lobing)、あるいは広げた手の平のようなパターンになったり(fingering)することのようです。


Lobingの例(P6のHOR.5kHz)




Fingeringの例(P9のHOR.10kHz)

周波数によって指向性が変化してしまうとは、下のグラフ(Beamwidth vs. Frequency)のように、X軸に示されている周波数が変化すると、Y軸に示されている指向性の角度(軸上の音圧に対して−6dB以上の分布が認められる範囲の角度)が不規則に変動してしまうというものです。このグラフでは、水平指向性(HOR.で表示されているライン)は630Hzで狭い指向性の角度(約63°)を示しており、また、垂直指向性(VERT.で表示されているライン)は2kHzで狭い指向性の角度(31.5°と40°の間)を示しています。このような特性を「中域において指向性が狭くなってしまうという問題点(Midrange narrowing)」として定義しているようです。



上記の2つの問題点を解決するために、キール氏は、エクスポーネンシャルホーンをスロート側に配置し、それと連続するように開口部側にコニカルホーン(円錐形ホーン)を配置させてみたらどうだろうか?と考えた訳です。下の図は、エクスポーネンシャルホーンとコニカルホーンの形状の相違を示しています。


エクスポーネンシャルホーン(実線)とコニカルホーン(破線)

下のレスポンスグラフ(このグラフのエクスポーネンシャルホーンとコニカルホーンのカットオフ周波数はいずれも100Hz)に示すように、エクスポーネンシャルホーンは、カットオフ周波数まで理想的なレスポンスを確保することができます。一方、コニカルホーンでは低域側のレスポンスに問題があり、100Hzから500Hzまでレスポンスが低下しています。しかし、コニカルホーンでは周波数が変化しても指向性は一定に維持され、良好な指向性制御を行うことができるという利点があるそうです。また、コニカルホーンでは、エクスポーネンシャルホーンにみられるホーン開口部からホーン内部への望ましくない反射が生じないため、ホーン開口を大きく設計することができるという利点もあるそうです。



キール氏が最初に考えた複合ホーンは、下の図のような、開口部側をコニカルホーンとし、スロート側をエクスポーネンシャルホーンにしたCEホーン(Conical-exponential horn)です。スロート側のエクスポーネンシャルホーン部分によってカットオフ周波数まで良好なレスポンスを確保しつつ、開口部側のコニカルホーン部分によって良好な指向性制御を実現しようとしたわけです。



しかし、このCEホーンでも、「中域において指向性が狭くなってしまうという問題点」が残り、また、指向性パターンにおいてもlobingやfingeringが見られるという問題点がありました。そこでキール氏は、こうした問題を解決するために、さらに知恵を絞りました。その結果、誕生したのが、下の図のような3段構成のCEホーンです。この3段構成のCEホーンは、スロート側の部分がエクスポーネンシャルホーンである点では同じですが、開口部側のコニカルホーン部分が2段構成になっています。大きく開いた開口側のコニカルホーン部分の開き角度は、真中のコニカルホーンの開き角度の2倍になっています。



下のグラフは、3段構成のCEホーンの開口部の差し渡しの長さ(Y軸)と、指向性制御の下限周波数fI(X軸)と、指向性の角度との関係を示しています。このグラフから分かることは、開口部の差し渡しの長さにより、指向性制御の下限周波数が決定されるという考え方。カットオフ周波数のみを問題にするエクスポーネンシャルホーンの設計とはずいぶん異なります。3段構成のCEホーンにより指向性パターンやMidrange narrowingの問題点が解消され、この考え方が定指向性ホーンの基礎的な理論となりました。



という訳で、キール氏の論文の要約はこれでおしまいです。ふう〜。こういう理論を学ぶのは楽しいことですが、理論だけというのもつまらないものです。タイプはどうであれ、お気に入りのホーンと楽しく暮らせれば、それが一番では?

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