幸せの黄色いホーン 14話 ヨーロッパドライブ(1)

オーディオ好きにはメカ好きが多いですよね。その例にもれず、カメラのほかバイクも好きです。今は乗っていませんが、空冷最終型のDT125、初代のRZ250、XS650Specialなどに乗っていました。どれもYAMAHAです。

XSは、初期型SR400に乗っていた友人が知り合いから1万円で譲ってもらうことになっていたものを横から頂戴しました。できる限りばらしてパーツをピカールで磨き上げ組みなおしました。クランクケースには顔が写り込むほどで、ゆがんだアホズラを今でも覚えている。高校の英語の教師になったその友人はサンディエゴに遊びにきました。

北米の生活ですっかり右側通行になれたので、北米滞在中の2002年の初夏に、ほぼ1ヶ月間、ヨーロッパを妻と子供の三人でドライブしました。アメリカのドライブでは国立公園等をあちこちまわってしまったので、まとまった休暇がとれるこの機会にと、思い切ってヨーロッパに行くことにしたのです。ホテルは当日の夕方探すという行き当たりばったりの旅でした。ドイツ、チェコ、オーストリア、スイス、フランス、モナコと、5000kmほどをレンタカーで走りました。

そのヨーロッパで3つの音楽体験をしました。一つ目はドイツのシュヴェービッツハルという小さな町に行ったときのことです。日曜日、川岸の公園の駐車場に車をとめると、どこからかブラスバンドの音が聞こえてきました。映画007のジェームズボンドのテーマです。天気もいいので、音を頼りに歩いていくと、木造の円筒形の建物があってその木製のドアをあけてポツリポツリと人が中に入っていきます。切符を売っている様子もありません。ドイツ語は話せないので人に聞くのも面倒です。そのドアから、みんなと同じようにさっさと入ってしまいました。

中には大編成のブラスバンド。説明しにくいのですが、この木造の円筒形の建物は見たこともないような建築物で、筒のような形をしていてほとんど天井がありません。円筒の内壁際にぐるりと1階席、2階席があって、そこだけは天井があります。ブラスバンドは天井のない吹き抜け部分のステージならぬ細かい砂利をひいた地面の上に折り畳み椅子を並べて演奏していました。

ドアを開けると凄まじい音量が襲ってきたのでドッキリ。圧倒されたまま、よろよろと席についたのですが、その席はブラスバンドの真正面で最前列の席でした。強烈な音圧に酔えました。ボンドのテーマは客寄せだったみたいで、どんどん曲は難しい感じのものになってゆきます。若くてはにかみ屋のドラマーの乱れ打ちがすごい。7、8曲聴くことができました。メンバーの年齢がまちまちだったので市民バンドなのだろうと思います。ドイツ風というべきか、折り目正しく大変上手。

それにしても、この天井のない半開放的な市民ホールが気に入った。円筒形の壁面がしっかりしているからホールの響きはちゃんとあるし、半屋外というのは気分がいいです。このホールを設計した建築家は、なんと常識にとらわれていない人なのだろうか。木造の円筒形天井開放型ホールなんて想像したこともなかったからです。

こういう開放的な音を聴くと、はるか昔の大学の屋外コンサートを思い出しました。どういうわけかそのとき聴いていた客は情けないことに4、5人程度。こういう経験が結構あって、ひどいときにはライブハウスに行って客が自分ひとりだったという経験もあります。いい歳の大人5人ぐらいがコーラをちびちび飲んでいる童顔の学生一人のためだけに演奏しているからはずかしいというか居心地がこの上なく悪い。時たま、この時のことを思い出すと、映画「昼下がりの情事」に出てくる楽団を引きつれてサウナに行けるか、ということを考えます。あなたはどう?

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