幸せの黄色いホーン 113話 コンサートホールの音

2010年の4月から読売日本交響楽団の名曲シリーズの年間会員になり、サントリーホールに月1回、通うようになりました。また、同ホールで行われているパイプオルガンのお昼の無料コンサートにも出かけるようになりました。コンサートホールに行ってみようと思ったのは、黄色いホーンシステムの音を深く考えてみたいと思ったからです。

大抵のオーディオシステムの場合、いい音だなぁと単純に思えればそれで済みます。ところが、常軌を逸している黄色いホーンシステムのような大規模なシステムの場合には、それだけでは済まなくなります。コンサートに行ったあとオーディオを聴くとその差に愕然とするというような話がありますが、巨大な黄色いホーンシステムの場合は、そういう失望感とは無縁です。そうなるとコンサートホールの音の完璧な再生というものを望み始めるのです。こうした願望は大規模システムを操るマニアに共通しているのではないかと思います。

コンサートホールの音と一口に言っても、それは座席によってずいぶん違います。バイオリンの近くで聴けばバイオリンの音が主張するのは当然ですし、ホルンの近くで聴けばオーケストラがブラスバンドのように聴こえます。コントラバスの近くで聴けば中低域だらけの音。こんな具合ですから、極端な話、2000席あるサントリホールの音は2000通りあることになります。オーディオ的な極端な話は嫌いなので、まとまった100席が同じ音であると仮定しますと、それでも20種類ものコンサートホールの音があることになります。さらに、指揮者のポジションで聴く音が加わると21通り。

それからもう一つあります。それは収録マイクの位置。オーケストラの上空、数メートルの位置に宙吊りされているマイク群が拾う音。それがレコードの音、CDの音。そしてこれがオーディオで言う原音の「ポジション」。誰もその位置に座って聴いたことがないのにこれがオーディオの「原音」という実に奇妙なお話。

コンサートホールの音を考える場合、直接音、初期反射、後期残響(残響音)の3種類の音を認識する必要があります。(詳しくはこちらこちらを) 影響の大きな初期反射のほか、帯域別の後期残響時間の差なども大きな要素になります。そのようなことを考えると、あのオーケストラの上空のポジションというのは、かなり特殊な音なのではないでしょうか。つまり、直接音と初期反射の割合が大きく、その結果、後期残響の割合が少なくなっているということ。中低域の後期残響の割合が抑えられ音は明瞭になります。これはオーディオ向きのキレのある音です。

ところで、演奏者は後期残響の影響を考慮してホール毎に演奏スタイルを調整します。後期残響は音の響きというだけではなく演奏のあり方にも影響があるということです。また、演奏者は妙な後期残響を持つホールは演奏しにくいため敬遠します。コンサートホールの設計が帯域別の後期残響時間の長さを非常に重視して行なうのはこういう背景があるのです。

下のグラフはサントリーホールの帯域毎の残響時間を示したグラフです。Occupiedが客席に人がいる状態、Unoccupiedがいない状態です。なお、実際に聴いてみると満席に近い状態でも残響は優に5秒以上あります。





サントリーホールに通うようになってから黄色いホーンシステムの音の方向性が段々と固まってきたように思います。無限のエネルギーを秘めた重厚な音。明瞭さのために犠牲になった後期残響を含むバランス。その方向性は2010年の夏にヨハネスさんがいらっしゃったときに修正されたものの、結局、その後の再調整によりヨハネスさんがいらっしゃる前の状態に戻りました。もっとも、46cmウーファーのダクトの封鎖を片方のみとし、それに応じてイコライジングをやり直すなど、新たな設定を行ったため、元に戻ったのではなくやや前進したことは確かです。

コンサートホールの音を中心にしてオーディオを考えるようになるとネットを含めたオーディオ評論が気にならなくなります。機材の聴き比べのような話は実際の生の音とは距離のある架空の世界の話にすぎません。自信をもってオーディオを続けるために、やはり生の音を聴きに行くことが一番だと思っています。


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