幸せの黄色いホーン 11話 終着兵器(2)

2360Aは非常にマイナーな存在ですが、いくつかの情報を持っていました。最初は、ずいぶん昔の話になるのですが、確か無線と実験誌で、初代の4675(高域のホーンが2360A)のことを「音がいい」とJBLの技術者(副社長?)自身が自賛していたインタビュー記事があったのを見たことがあります。ホーンばかりが大きい4675の奇妙な外観と「音がいい」というコメントの違和感が印象的で、それが興味をもつきっかけになりました。


4675

次に、ステレオサウンド誌の別冊「JBLのすべて」の中で倉持氏が2366Aのことを少しだけ書いていたのを読みました。氏の4560と組み合わせるホーンとして2366Aを考えているがどうしたものかというような内容でした。

これは2360Aに関する直接の記事ではありませんが、ステレオサウンド誌の別冊のマルチアンプ特集でエレクトロボイスの2360Aと同類の大型ホーンHP9040を同社の小型ホーンHP940と比較して誉めていた記事がありました。

さらに、ステレオサウンド誌の別冊、JBLモニタースピーカー研究の付録のような形で、2360Aの試聴記事が出ていました。この記事の中で印象に残ったのは「全ての帯域の音が2360Aから聞こえてくるように感じる」というような言葉でした。自分が読んだ2360Aの評論では、これが唯一のものです。

こういう断片的な情報は、かえって想像力をかきたてます。変な形だから変な音がするのではないかと。一度でいいから聞いてみたいものだと思っていたら、ちゃんと聴くことができました。

サンディエゴにシーワールドという水族館を遊園地化したような施設があります。シャムショー(あっちではシャチのことをシャムと呼ぶ)が有名です。家族でそのシーワールドに行ったとき、偶然、聴くことができました。アザラシとオッターのショーの会場に片チャンあたり2360Aが2台づつ計4台、高い位置に設置してありました。うれしいですよね、こういうのは。

会場は屋外。現在のカタログにはない防水仕様。ドライバーには円筒形状のカバーが設けられていました。2台一組で、それぞれ、1台は遠方の客席に向けて水平に、もう1台は近距離の客席に向けてやや下方に向けられていました。ホーンスタンドは2506ではなく、吊り下げられています。

組み合わされているウーハーは、38cmダブルウーハーのフロントロードホーンでした。2360A1台に対してこれが1台づつ、全部で4台。この箱はALTEC815Aの幅を狭くしたようなものでした。815Aと違うのは、PA用のスピーカーシステムに見られる奥に向かって狭まるくさび型のエンクロージャーである点です。幅90cm、高さ90cm、奥行き80cmぐらい。ダクトはどこにあるか分かりませんでした(もしかするとダクトは無いのかも)。これは見たことがない箱でした。

防水ネットがあってよく見えなかったのですが、このフロントロードホーンのウーハーは、コルゲーションがあるため2220ではなく2205か2225のようでした。音のほうは、JBLらしいシャープさを感じさせながらもキャンキャンいわず、深みと余裕を感じさせるものでした。年間パスなので、何度もそのショーを見たのですが,そのたびに違う場所で聴きました。どうもスピーカーからの距離が遠い上段の席の方が好ましい。それから、ツィーターを見かけなかったのですが、高域補正を行っているにせよ、わりと高域側も伸びていたのが印象的でした。大型ホーンでも、折り曲げホーンでなければ高域は結構伸びるものだなと思いました。

現代的な大型ホーンの音というのは、それまで聴いたことがありませんでした。なりが大きいので、もしかしたらブワブワした大柄な音?なのかもしれないとも思っていたのですが、このシーワールドの2360Aの音は好印象でした。もっとも、屋外PAとしては、という話で、部屋の中での近接して聴いた場合、どうなるのかは全く不明です。

ある日、オーディオ機材の日本のオークションサイトをのぞいていたら、中古の2360Aがエレックスというオーディオ店から出品されていました。スタンド付き2本一組で9万円。消費税と送料でしめて10万。写真でみる限りきれいな品です。

どうしましょう。「2インチスロートのホーンをいつかは必ず購入したい。しかし、蜂の巣や2350を始めとしてキラ星のようなホーンがJBLにはたくさんある。もし、2360Aを購入したらそういうキラ星のようなホーン達を結局は諦めなければならないだろう。2360Aに終着兵器としての価値はあるのか?」こんなことを延々と考えつづけるのはすこし自虐的で楽しいことなのですが、相手はオークションサイトです。落札されたらおしまい。しかも2360Aは2360Bも含めて単品の販売中止になっていますから、「あれが最後のチャンスだった」と後悔したくはありません(なお、2002年10月版の日本版カタログに2360Bが掲載されているのをあとで発見しました。しかも、在庫限りという表示が付けられていません。アメリカ本国では、すでにラインナップから外れてしまっているのに、実際のところどうなっているのでしょう?)

それに躊躇している最大の理由は、結局、ホーンの大きさなのではないかと。しかし、2360Aが必要とするスペースは2本でたったの一畳程度。なんとなく満足できなくて、小さなスピーカーを何台も並べるぐらいなら、ここは、一台で大きなものにした方がよいのではないかという結論に達しました。

日本にいる弟氏に連絡してこの2360Aスタンド付を入手してもらいました。モノがばかでかいだけに恥ずかしかった、というのが正直なところです。

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