幸せの黄色いホーン 06話 餅のねばり(1)

寝る前にときどきオーディオ雑誌を読みます。オーディオ雑誌は、昔は良く買いました。しかし、最近は立ち読みばかりでほとんど購入していません。大型スピーカーの話が少ないからだと思います。大型スピーカーの記事がときどき出ているのは、ハイエンド機器を紹介しているステレオサウンド誌なのですが、先立つものが一桁(二桁?)少ない自分の場合には、残念ながら別世界です。ところで、岩崎千明氏が「オーディオ彷徨」(私とJBLの物語)の中で、こんなことを書かれています。

「昔は、買いたくても、それに憧れても、容易には自分のものにはならなかった。いまは、欲しければ、すぐにでも手元における。いや、欲しいとまでいかなくても、単に「あれば良い」という程度でも買い込んでしまう。欲しくて欲しくて、それでも買えなくて毎日、毎日、そのスピーカーをウインド越しに眺め、恋いこがれてそれでも容易には買えなかった。だから手に入れたときは、感激も強く、その感激にひたりながら聴いた音は生涯忘れられっこない。今は、そういう環境が欲しいけれど、すぎし過去は現実の問題としても不可能だ。来てしまった道はもう戻れっこないし、昔、苦労して辿り、足を引きずって歩いた道が、やたらなつかしい。「あれを鳴らしたら、いいかも」と熱の上ったところで入手しても、堅いボール紙の包装さえとかずに部屋の隅に転がし、忙しさにまぎれて幾日か経ってしまう、というのが常だ。封を切るのももどかしく、箱の底に顔を出したユニットをなでまわした頃がなつかしい。」

最終的にパラゴン、ハーツフィールド、パトリシアンを所有していた岩崎氏のような達人にしてこれですから、いつまでも楽しくオーディオと付き合うというのはむすかしいようです。

話を戻します。ある夜、ステレオサウンド誌の別冊マルチアンプ特集号に載っているアキュフェーズの出原真澄氏のインタビュー記事を読み返していたとき、ホーンにFETアンプをつなぐと餅のような粘りが出るというアドバイスに目が止まりました。どういう意味か分からなかったのですが、そのとき閃いたのです。そうだFETアンプは持っているじゃないかと。

ずいぶん昔の話ですが、山水のCA−F1(定価8万)という薄型のプリアンプを買ったときアンプで音が変わることを知りました。ダイアモンド差動回路いうか、沢山の石を使うと(誤解でしょうね)、プリアンプでさえシステム全体の音を力強いものにするのかと。最初に購入したトリオのKA7300Dと比べると強烈だったのです。

2155Hにつながれているアンプは、LUXキットのA501というトランジスタアンプです。18歳のころ(1979年ごろ)作ったキットアンプで定価は確か5万5千円。シャーシは合板製です。こんな大金でキットを買って音が出なかったらどうしようかとずいぶん購入をためらいました。10年ぐらい前、入力ボリュームがガリュームになったときに渋谷の東急ハンズで新しいのを買って付け替えた以外、20年以上元気に動作しつづけています。たしかA級動作で20w+20w、AB級動作で100w+100w。A級の方が、音が良いらしいのですが、A級にするとヒートパイプの中の水が煮えている音が聞こえてきて不安になるので熱くならないAB級動作でしか使いません。

手持ちのFETアンプとは、SONYのTA−F222ESJ(定価5万ぐらい)というFETシングルプッシュプルアンプです。FMファン誌だったように思うのですが、長岡鉄男氏が誉めていた記事を立ち読みし、その記事が印象に残っていてずいぶん後になって購入しました。もっともこのアンプは自分の仕事場のBGM用として使っていました。今まで2155Hと何故つながなかったのかといえば、こういうマスプロアンプをプロ用のJBLユニットとつなぐことに抵抗感があったからです。そして、長岡鉄男氏がほめていたものの、このアンプに2155Hに見合うだけの実力があるとは夢にも思わなかったからです。

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